『ロジカとラッカセイ』ー心がざわつく「ほのぼのダーク」ー(途中ネタバレあり)

◯『ロジカとラッカセイ

 先日新宿のアニメイトで新刊コーナーをぶらぶらしていると、自分の琴線にゴリゴリ触れる漫画を発見しました。思わずジャケ買いしてしまったのですが、中身を見てもとても自分好み!いてもたってもいられず感想を書くことにしました。

 

 

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(表紙です。柔らかなタッチの可愛らし作画ですね!ちなみに人間が左がラッカセイ、右のなんj民みたいなのがロジカです。)

あらすじ

 

—人類が滅んだとしても、ひとりぼっちじゃないよ。—

 人類が滅亡した未来の地球でただ一人の人間ラッカセイと、彼女(彼?)と暮らす変な生き物ロジカ。住む生き物も環境も変わってしまった星で、二人は平穏で何気ない日常を過ごしているのだが…

 

 簡単に言えば異世界となった地球で暮らす人間と不思議な生き物たちの日常を描いた、SF(少し不思議)モノです。基本的には前時代の遺物(レコードなど)で遊んだり、誕生日を祝うために森を探索したりなど、何の変哲も無い日常モノです。柔らかな絵柄で描かれる不思議な世界での日常はそれだけでも面白いのですが、この作品はそれだけで無いのです。

 

ここからネタバレあり!

 

 

「ほのぼのダーク」な世界観

 コミックスの帯にも書かれているのですが、この作品の真の魅力は「ほのぼのダーク」。字面からわかる通り、ほのぼのした日常モノの中に、どこか薄暗いエンディングが存在しているのです。この代表的なものはコミックス第5話「牛」。シチューを作るため、牛乳を求めて牧場へ向かうロジカとラッカセイですが、いつもの牧場は閉まっており、別の場所へ。そこで牛乳をもらい満足して帰る二人なのですが、一匹の牛がついてきていたことに気づきます。追い返しても無視しても一向に帰らない牛に辟易して満足にシチューを食べられないまま寝た二人ですが、起きると牛が家にまで入ってきたことに驚く。困った二人の前に牧場主が牛を迎えに来たことでこの牛は帰り、問題は解決します。

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(画像は牛がついてきた様子。どことなく人みたいな不思議な生き物になっています。)

 ……とここまでは普通にほのぼのしたストーリーですが、エンディングでは恐ろしい結末を迎えます。後日お詫びとして牧場主から送られてきたのは「びぃふ」という、かつて人類が食べていたもの。まんま牛肉です。ラストでは「ちょっと牛乳の味もするな!」と言いながら美味しそうに「びぃふ」を食べるラッカセイが映って終了。

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(明らかに牛肉ですね。この未来から逃げるために牛はついてきたのでしょうか…。) 

どうでしょうか。明示されてはいないものの「その牛食べられちゃったんだ……」と陰鬱な気持ちになる一方、「いや家畜が食べられただけだし現代と変わらなくない?」と思った方もいるでしょう。しかし、恐ろしいのはここからなんです……。

 上の画像を見てもらえると分かると思うのですが、牛は私たちの過ごす世界のそれとは形が異なり、二足歩行で移動もします。なんとも変な生き物ですね。なぜこれが問題なのか。『ロジカとラッカセイ』の生き物は皆、人間ではない変な生き物だからなのです!彼らと牛の違いは、言葉を話すか否かという差があるにせよ、人間ではないという点では同じ。なら、ロジカたちだってもしかしたら食われる側になっていたのではないでしょうか。さらに、書きそびれていましたがこの世界では肉食の文化が失われています。それにもかかわらず、なぜ牧場主は肉食加工をできたのか?この「牛」という話は、単に牛が殺され肉にされただけではない。いつもと違う場所にロジカとラッカセイが出向いたために、失われた肉食文化の継承者の存在、そしてこの世界での生き物の間で、いかなる線引きで支配し支配される関係が決まっているのかという問題に読者は気づかされるのです。

 いかがでしょうか。この1話の中に、作品の世界観の謎がこんなにも隠されているのです。作中世界の謎に関わる重要な話であり、それに触れることでこの世界の闇にも触れることができる。第5話「牛」は、「ほのぼのダーク」を象徴するお話だということがわかりますね。こう考えると、『ロジカとラッカセイ』の、SF日常モノにとどまらない魅力が現れていることがわかってもらえたと思います。

補足

 ここまで『ロジカとラッカセイ』について書いてきましたが、僕がこの作品について書こうと思ったのはこれと類似した雰囲気を持つある漫画家を思い出したからです。「阿部共実」という漫画家をご存知でしょうか。『ちーちゃんはちょっと足りない』でこの漫画がすごい!の2015オンナ編1位を獲得し、それ以外にも『空が灰色だから』、『月曜日の友達』などの作品を書いている、知る人ぞ知る異才です。彼の漫画も「心がざわつく」と評され、一見可愛い絵柄の中に隠されたダークな雰囲気が読む人を魅了しました。この表現が、『ロジカとラッカセイ』の中にも見て取れるのです。もちろん、違いはあります。阿部共実作品は現代日本を舞台の田舎を舞台とした少年少女の物語で、世界設定はまるで異なります。しかし、登場人物が見せるちょっとした闇、どこか現実世界と異なるおかしな雰囲気を持った世界観など、両者に共通するものは少なくないと考えます。もしこのブログを読んで『ロジカとラッカセイ』を読んだという方がいらっしゃいましたら、阿部共実作品もぜひ手に取り、両方とも楽しんでもらえたら、と思います。どっちも読んでるという方はぜひコメントしてください!この二つはメジャーと言えるような作品ではないので周りに語れる人がいないんです(泣)。

 

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画像引用:紀ノ目『ロジカとラッカセイ』新潮社、2018年